2023年3月現在

AI医療を提供する人・使う人・受ける人が、AI医療を発展させるために

より早く・正確な医療を患者に提供する方法のひとつとして、行政、産業界、アカデミア及び関係者(関係省庁・企業・病院など)がAI開発・利用を進めています。

AIDEプロジェクトは、AI医療の開発・利用が進む中、幅広いステークホルダーが参画し、さまざまな知識と経験を活用できる「エンゲージメントプラットフォーム」を開発することを目的としています。開発の過程の中で、私たちは、現在のAI医療への参画の状況、ステークホルダーの主要な懸念を明らかにしたいと考えています。

AIDEプロジェクトとは

AIDEプロジェクトは、「ワークパッケージ」ごとに進めていく研究

AIDEプロジェクトは、研究を7段階のワークパッケージ(WP)に分割して進めます。
最初の戦略立案(WP1)から、研究に重要な視点をもたらすと考えられる「患者・市民参画パネル」の設置(WP2)、実証研究を進めるための基礎となる文献スコーピングレビューとツイッター研究(WP3)、実証研究の取り組み(WP4WP5WP6)、最終段階となるWP7でAI医療を発展させるための幅広いステークホルダーの関与による持続可能なプラットフォーム設計までを行う計画です。

ワークパッケージで行う研究

WP1:日本と英国で協調し、情報発信と普及戦略を立案

AIDEプロジェクトは、英国オックスフォード大学と大阪大学との共同研究です。
両大学の研究者同士が連携し、プロジェクト全体の進捗状況を管理するほか、情報発信のためにウェブサイトを作成しました。

また AIDEプロジェクトの研究体制の一部として、両国ともに外部有識者によるアドバイザリーボードを置き、AIDEプロジェクトについてアドバイスを得られるようにしています。

オックスフォード大学と大阪大学の共同研究

WP2:患者・市民参画パネル(PPIP:Patient and Public Involvement Panel)を組織

AIDEプロジェクトは、研究に重要な視点をもたらすと考えられる「患者・市民参画パネル」を日本・英国それぞれに組織しています。

AI医療開発・実装に、これまで必ずしも関与してこなかった患者と市民を巻き込むことが重要とAIDEプロジェクトは考えています。そのため、WP2ではAIDEプロジェクトの早い段階から「患者・市民参画パネル(PPIP)」を設置し、患者と市民の視点を取り入れることにしました。

一般募集を経て、11名の患者と市民が日本のAIDEプロジェクトに参画しています。PPIPメンバーの参画により、AIDEプロジェクトはWP2以降のすべてのワークパッケージにおいて、患者・市民の意見・視点を取り入れて進めることができます。

PPIPメンバーが充実した討議ができるように、AI医療について研究者や専門家の講演を通じて学習する機会を設けました。

さらに、研究チームはPPIPメンバーと定期的に会議を開催し、各ワークパッケージに関する意見交換してきました。WP5・WP6を共同開発したり、WP3からWP7までの結果分析にフィードバックをしてもらうなど、患者・市民視点からの知見を得るように努めています。

PPIPはAIDEプロジェクトのコアであり、推進力となっています。

WP2:患者・市民参画パネル

WP3:⽂献スコーピングレビュー・ツイッター研究

文献スコーピングレビューでは、過去に行われたAI医療分野でのステークホルダー参画に関する課題を特定するため、27件の論文・レポートの内容を分析し、どのようなステークホルダーが関与しているのか、どのような方法論が用いられているのか、そしてその成果は何かを明らかにしました。

また、ツイッター研究では、プロジェクトの初期に短期間で日本語と英語の投稿(ツイート)を体系的に収集し、さまざまな方法でツイートを分析しました。AI医療について、日本と英国のソーシャルメディア空間でどのような言説が生み出されているか、AI技術による医療を取り巻く急速な変化に対する感情(ポジティブ、ネガティブ、ニュートラル)を確認しました。

ツイッター研究から得られた結果はまもなく公開予定です。

WP3:⽂献スコーピングレビュー・ツイッター研究

WP4:医療へのAI導入におけるステークホルダーの識別

WP4では、大阪大学医学部附属病院とオックスフォード大学関連病院と連携し、医療分野へのAI導入において、どんな人々がステークホルダーなのかを識別しました。医師をはじめとする医療関係者がステークホルダーとして認識されていますが、特に影響を受けているのはどのグループなのでしょうか?同時に、この分野のイノベーションはどこから生まれているのでしょうか?

AIDEプロジェクト研究チームは、日英両国のAI医療の専門家を集め、ラウンドテーブルを催し、オックスフォード大学病院NHSトラストと大阪大学附属病院等におけるAIの開発・利活用の現状と課題ついて意見を交換しました。

そこでAI医療専門家視点から見た、医療分野に開発・導入されるさまざまな種類のAI技術、そのAI技術が現在の臨床医療にどのような影響を及ぼしているか、また影響を受けるステークホルダーが誰であるかという知見を得ました。

WP5:フォーカス・グループ研究

WP5では、WP3とWP4で識別したステークホルダーを参加者の対象とし、それぞれの立場ごとに少人数のグループ・インタビュー(フォーカス・グループ研究)を行いました。

グループ・インタビュー参加者にAI医療で想定されている事例を示し、事例の中で使われているAIへの期待や懸念について意見を述べてもらった上、AI医療へのステークホルダー参画についての意見も聞きました。

WP5のフォーカス・グループ研究で使用する想定事例は、WP4に関与した専門家やAIDEプロジェクトのAI医療専門家の意見に基づいて作成した想定事例を、AI医療専門家とPPIPメンバーに示し、フィードバックを得た後に、さらに修正を加えたものです。

WP5に関するレポートはこちらです。
https://aide.osaka.jp/2021100101/
https://aide.osaka.jp/2021101501/
https://aide.osaka.jp/2022011401/

WP5:フォーカス・グループ研究

WP6:これまでのプロセスから意見を抽出し、優先順位付け

WP2からWP5で得られた知見をもとに、AI医療開発・導入について、検討すべき課題、懸念点、AI医療開発・導入におけるステークホルダーの関与の重要性などをまとめたステートメントのデータセットを作成中です。データセットは、検証のためにPPIPや他の専門家に提示される予定です。

本研究におけるステートメントとは、意見を記述したものです。

例えば、「AI技術を使うことで、より精密に病気の発見と予測を行うことが可能になります」などです。

WP6の実証研究では、参加者にステートメントについて、優先順位・ランク付けを行い、その理由を説明してもらいます。

実証研究を通じて、「AI医療を発展させるために、幅広いステークホルダーが考える最も重要な点注意すべき点、さらに、持続的な関与を可能にするために優先順位の高い事項は何か」をより⼀層明確にしていきます。

WP6:これまでのプロセスから意見を抽出し、優先順位付け

WP7:AI医療に患者・市民、医療従事者や開発者など、幅広いステークホルダーが関与できるプラットフォームへ

AIDEプロジェクトは、全ワークパッケージの結果から、幅広いステークホルダーがAI医療の開発・導入における意思決定に関与できるプラットフォーム構築のプロトタイプを提案し、今後のAI医療の発展に貢献します。

例えば下記のような協働が可能になるかどうか、さらに持続可能にするにはどんなことが必要となるのかを明確にしていきます。

プラットフォームでできることの想定例

1.AI医療に関する情報共有により、オープンな議論を促す。

プラットフォームにおいて、AI医療の開発や導入に向けた取り組み、具体事例やセミナーなどに関する情報をウェブサイトやニュースレターなどで発信し、患者と市民に共有していく。

この情報共有により、さまざまなステークホルダー間で、AI医療の発展に向けたオープンかつ十分な情報に基づく議論・討論を促す。

2.さまざまなステークホルダー間の交流を促進し、相談しやすい環境を提供する。

医療従事者・技術者などがAI医療を考えるときに直接、患者や市民の意見を得ることができ、患者や市民がAI医療に期待すること、わからないこと、気になることを医療従事者・技術者に相談できる。
またAI医療の開発・実用化について、AI開発者が医療従事者と話すことも可能。

3. 多様なステークホルダー間で協働を促し、AI医療の発展とその利益還元に貢献する。

幅広いステークホルダー間の双方向の対話の中で、AI医療における政策立案と開発・導入する際のさまざまな課題とその解決策を検討する。

AIDEプロジェクトが考えるプラットフォームは、政策立案者、医療・技術の専門家、患者、市民など、幅広いステークホルダーを巻き込むことが期待されます。

こうしたステークホルダーの関与を通じて、新たな懸念を早期に特定し対処することで、AI医療の持続的な発展、そしてすべての人に恩恵をもたらすことに貢献することができればと考えています。

WP7:AI医療に患者・市民、医療従事者や開発者など、幅広いステークホルダーが関与できるプラットフォームへ